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ビールの歴史から学ぶクラフト戦略と売り場作り

ビールの歴史

ビールの歴史は「売り方の歴史」でもある

クラフトビールを売りたいのに、「どんな売り場にすれば良いか分からない」「差別化の切り口が思いつかない」と悩む方は多いです。実は、ビールの歴史を振り返ると、時代ごとのヒット要因や売場づくりのヒントが見えてきます。歴史を手がかりに、クラフトビールの戦略と売り場作りを考えてみましょう。

ビールの歴史をざっくり整理:ざまざまな「売り場の主役」が入れ替わってきた

ビールの歴史はとても長く、詳細は諸説ありますが、ここではクラフトビール販売に役立つ視点に絞って流れを整理します。

古代〜中世:地域ごとの「地ビール」が当たり前だった時代

古代メソポタミアやエジプトで飲まれていたビールは、今でいう「クラフトビール」に近い、地域ごとの小規模生産でした。中世ヨーロッパでも修道院や都市ごとの醸造所があり、人々は「その土地のビール」を飲んでいました。

この時代のポイントは、次のような点です。

  • 生産と消費の距離が近い(ローカル消費)
  • 味わいもレシピも地域色が強い
  • 「どこで飲むか」「誰が造ったか」が価値になっていた

これは、現代のクラフトビールが目指す世界観と重なります。ローカル性や作り手の顔が見えることは、今も強い差別化要素です。

近代以降:大量生産とラガービールの登場

冷却技術や貯蔵技術が発達すると、低温発酵で造るラガービールが広まりました。さらに産業化・大量生産が進み、安定した品質と価格のビールが広域に流通するようになります。

この流れの中で、売り場の主役は次のように変わりました。

  • 「地域のビール」より「全国で同じ味」の方が重視される
  • 味の個性より「飲みやすさ」「軽さ」がPRされる
  • 広告やマスメディアがブランドづくりの中心になる

結果として、大手ブランドが市場のほとんどを占めるようになり、スーパーやコンビニの棚は似たようなラガービールで埋め尽くされていきました。

クラフトビールの台頭:マスとは違う「物語」を売る時代へ

こうした大量生産へのカウンターとして、各地でクラフトビールが生まれました。背景には、ビール文化の多様性を求める動きや、地元産業の活性化への期待などがあります。

クラフトビールは、次のような価値を武器に伸びてきました。

  • 小ロットだからこそできる大胆なレシピ
  • 地域の農産物や水を活かしたテロワール
  • 造り手の思想やストーリーを前面に出したコミュニケーション

ここから学べるのは、「味」だけでなく、「背景」「体験」を含めて売ることがクラフトの戦略になる、ということです。

歴史から逆算するクラフトビール戦略の考え方

歴史を振り返ると、時代ごとに「何が選ばれたか」の軸が違っていました。クラフトビールを売るときは、その流れを踏まえて、自分がどこで勝負するのかをはっきりさせることが重要です。

1. 「マスと同じ土俵」で戦わない

大量生産ビールは、価格、知名度、流通量で圧倒的に有利です。ここで勝負するのは現実的ではありません。歴史的にも、小さな醸造所が大手と同じ戦い方をして生き残れた例は多くありません。

クラフトビールは、次のような軸で戦う方が現実的です。

  • 「安さ」ではなく「納得感のある価格」に見合う価値
  • 「どこでも同じ味」ではなく「ここでしか飲めない体験」
  • 「万人受け」ではなく「はっきりした好みのあるファン」

2. 「ローカル」と「物語」を組み合わせる

古代〜中世のビールは、地元と強く結びついていました。現代でローカル性を打ち出すときも、「地元だから」だけで終わらせず、物語に落とし込むことが重要です。

例えば、次のような切り口が考えられます。

  • 地元の農家とコラボしたホップや麦を使う
  • 地域の歴史的なエピソードや人物にちなんだネーミング
  • 地元の風土や気候から逆算したスタイル設計

こうした背景をラベルやPOP、Webサイトで丁寧に伝えることで、「単なる地ビール」から「ストーリーのあるクラフトビール」へと印象が変わります。

3. 「教育」と「体験」をセットで設計する

クラフトビールが普及した地域では、試飲イベントやビアバーでの説明など、「飲み方を教える場」がセットで生まれています。歴史的にも、新しいスタイルのビールが広がるときには、パブや酒場が文化発信の場になってきました。

売り場でも、次のような工夫が有効です。

  • スタイルや味わいを簡潔な言葉で説明するPOP
  • 飲むシーンやフードペアリングの提案
  • スタッフが推しビールを自分の言葉で話せるようにする

「よく分からないから手に取りづらい」という心理的ハードルを下げることが、クラフトビールの売り場では特に重要です。

ビールの歴史を活かした売り場作りの実践ポイント

ここからは、小売店や飲食店でクラフトビールを扱うときの売り場作りを、歴史的な視点を踏まえながら具体的に見ていきます。

売り場は「棚」ではなく「小さなビアパブ」として設計する

ビールの文化は、常に「場」とセットで育ってきました。パブやビアホールは、単なる販売の場ではなく、人が集まり、話をし、好みを発見する場でした。

店舗の一角でも良いので、「小さなビアパブ」のような世界観を作ると、クラフトビールの魅力が伝わりやすくなります。

  • スタイルごとにゾーニングして並べる(IPAコーナー、黒ビールコーナーなど)
  • おすすめ3〜5本を「はじめてのクラフトセット」としてまとめる
  • 醸造所別ではなく、「味わいの軸」(苦味・香り・軽さなど)で配置する

歴史的に主流だった「ラガー一辺倒」と違い、クラフトは多様性が魅力です。その多様性が直感的に伝わるレイアウトを意識します。

ラベルとPOPで「時代背景」を伝える

ビールの歴史をさりげなく売り場に混ぜ込むと、初心者でも興味を持ちやすくなります。すべてを詳しく書く必要はなく、「ひとことトリビア」程度でも十分です。

POPの例:

  • 「昔のビールはほとんどエール。冷蔵技術の発達でラガーが主流に」
  • 「IPAは長い船旅に耐えるために生まれた“苦いビール”がルーツと言われています」
  • 「修道院ビール風の濃色ビール。ゆっくり飲みたい夜に」

こうした一言があるだけで、同じ価格帯でも「学びのある商品」として選ばれやすくなります。

食との組み合わせも「歴史」をヒントにする

中世ヨーロッパでは、ビールは「液体のパン」とも呼ばれ、食事と密接に結びついていました。現代のクラフトビールでも、フードペアリングの提案は重要な購入動機になります。

例えば、次のような歴史的イメージをヒントにできます。

  • 修道院風ビール × チーズや燻製肉
  • イギリス系エール × フィッシュ&チップス風の揚げ物
  • ドイツ系ラガー × ソーセージ、シンプルな塩味の料理

売り場で簡単なフード提案カードを添えるだけでも、「飲む場面」が具体的に思い浮かび、手に取りやすくなります。

初心者〜中級者が押さえておきたいクラフト戦略のチェックリスト

最後に、ビールの歴史から学んだポイントをふまえて、クラフトビールを扱う際のチェックリストを整理します。

  • 自社(自店)は「マス市場」とどこをずらして戦うのか、言語化できているか
  • ローカル性と物語を、ラベルやPOPで具体的に伝えられているか
  • スタイルや味わいの違いを、初心者にも分かる言葉で説明しているか
  • 売り場が「ただ並べている棚」ではなく、「発見の場」になっているか
  • 歴史や背景をフックにしたトリビアやフード提案が用意されているか

ビールの歴史は、常に「誰が、どこで、何を価値として飲むのか」の変化の歴史でもあります。その流れを理解したうえでクラフト戦略と売り場作りを考えると、単なる商品の並べ替えではなく、「体験としてのビール」を設計できるようになります。

まずは小さな工夫からでも構いません。歴史を味方につけて、自分なりのクラフトビールの売り場を育てていきましょう。

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